渋谷のラジオ、10周年。ラジオの未来を語ろう。〈対話:やきそばかおるさん〉
2016年に誕生したコミュニティFM「渋谷のラジオ」は、この4月で開局10周年!街の声を届け、人と人をつないできた10年です。これからラジオはどんな面白さを持ち、どんな可能性を広げていくのでしょうか。
日本全国のラジオ番組に詳しいラジオコラムニスト・やきそばかおるさんと、渋谷のラジオパーソナリティの島田亜紀恵が語り合いました。
ラジオに出会った原点から、コミュニティFMだからこそできる挑戦、そして渋谷のラジオのこれからまで。ラジオを愛するふたりの対話から、私たちの未来が見えてきました。
島田亜紀恵(以下、島田)
やきそばかおるさんは、日本全国のラジオ番組を聴き、取材し、さらに番組制作にも関わり、パーソナリティも担当しています。まさにラジオと共に生きている方という印象ですが、そもそもラジオを好きになったきっかけはなんだったんですか。
やきそばかおるさん(以下、やきそば)
最初は兄のラジカセでした。僕の実家は山口なんですが、ラジオをつけると山口だけじゃなくて福岡や大分、愛媛の電波も入るんです。同じラジオでも、地域によって雰囲気が全然違うんですよ。愛媛の放送では道後温泉の話をしているし、福岡は都会らしく街の情報がどんどん流れてきて、しゃべりのテンポも速い。大分は山口と近い空気を感じたりして。その違いを聴き比べているうちに、行ったことのない場所の空気が音だけで伝わってくるのが面白くて、「ラジオってすごいな」と思うようになりましたね。
島田
地域ごとに空気が違う、番組ごとに空気が違うというのはラジオならではですよね。渋谷のラジオでも、ひとつのタイムテーブルの中にまったく違う世界が広がっています。ちなみに、やきそばさんが、「ラジオ、好きかもな」と感じた瞬間って覚えていますか。
やきそば
やっぱり音楽ですかね。今みたいにサブスクで自由に聴ける時代じゃなかったので、好きな曲に出会える場所がラジオだったんです。斉藤由貴さんとか南野陽子さんとか、世代がバレますけど(笑)。好きな曲が流れるのを待ちながら、かじりつくように聴いていましたね。
島田
それ、すごくわかります。ラジオって「いつ流れるかわからない」からこそワクワクするんですよね。今は便利な時代ですが、あの偶然の出会いはラジオの醍醐味だと思います。そうやってラジオが好きになって、今は仕事としても深く関わっていますよね。長く関わっていると、「もう嫌だ」と思う瞬間はありませんか。
やきそば
ありますよ。でもそれはラジオが好きだからなんです。好きだからこそ「こういう番組を作りたい」という理想がどんどん膨らむ。昔こんな番組があって面白かったなとか、こういう企画をやったら絶対楽しいのにな、とか考えるんですが、現実には、お金がないとか人手も足りないという問題がありますよね。その理想に届かないときは、リスナーに申し訳ないなと思うこともあります。現実と理想のギャップがあるから。ただ、だからこそ考え続けるんですよね。どうしたらもっと面白くなるかって。
島田
理想があるからこそ悩む、というのはどの仕事でもありますが、ラジオは特に「こうしたらもっと面白くなるのに」というアイデアが次々浮かぶ世界かもしれませんね。お金がないとか人手も足りないという問題は、それこそ、コミュニティFMのような規模の小さなラジオ局では常にある課題だとも思いますが、やきそばさんは、コミュニティFMの魅力をどのように感じていますか?
やきそば
たとえば鳥取県米子市にDARAZ FMという局があって、「ラジオプラネタリウム」という番組をやっているんです。夜空を見上げながら星空の解説をする生放送で、街全体がプラネタリウムみたいになる番組なんですよ。米子の人は本当に空を見ながら楽しめるんですが、これが、東京で聴いていてもすごく面白いんですね。同じ空じゃなくても、同じ時間を共有できる。これこそ、ラジオの魅力だと思います。ひとりのプラネタリウムの解説員の生き様にもドラマがありますよね。だから、僕は、職業の数だけ番組があっていいと思うんです。広域放送に比べてコミュニティFMは実験的なことができるんですよ。それこそ、スタジオを飛び出して、飲食店で、お客さんに話を聞くような生放送だってすぐに企画できますよね。そういった自由さは、すごく魅力的ですよね。
島田
「職業の数だけ番組があっていい」という言葉は、コミュニティFMの本質を表していますね。渋谷のラジオも、ミュージシャンの番組もあれば、商店街の方の番組もあり、学生が作る番組もあります。本当に多様な声が集まっています。
やきそば
僕も渋谷のラジオで「やきそばかおるのラジオコンシェルジュ」という番組を担当させていただいてから7年になりますが、全国のラジオ局のアナウンサーの方に出演してもらっているんですね。こういうことも、大きな放送局では難しくても、コミュニティFMならOKが出ることも多いんです。今はアプリを使えば日本全国どこからでもラジオが聴ける時代なので、渋谷のラジオだって全国から聴けます。大きな局ではできないことをやれて、かつ、大きな局の番組と同じように全国で聴けるのがコミュニティFMの面白さだと思います。
島田
実際に渋谷のラジオも、アプリで聴いてくださっているリスナーが全国にいるんですよね。コミュニティFMでありながら、同時に全国につながっているメディアでもある。そこがとても面白いところだと思っています。これからのラジオについて思うことってどんなことですか。
やきそば
ラジオの世界で本当に怖いのは、スポンサーがつかないとか聴取率が悪いとか、そういうことではないと僕は思うんですね。一番怖いのは、ラジオでしゃべる人や作る人がやりがいを感じなくなってしまうこと。ラジオが好きでこの業界に入ったのに、数年で辞めてしまう人も多いんです。それはすごくもったいない。いろんな人に話を聞くと、悩みの多くはコミュニケーションなんですよ。もっと良い番組を作りたいけど相談する相手がいないとか、アイデアを共有する場がないとか。そうやって孤独になってしまうと、「自分はラジオに向いていないのかも」と思ってしまうんですよね。
島田
確かにラジオって一人で作っているように見えて、実はたくさんの人との関係の中で成り立っているメディアですよね。わたしも、番組の感想やリアクションがあると本当に励まされます。たとえ「ここはよくなかったよ」という意見でも、何か反応があるだけで次に進む力になる気がします。
やきそば
本当にそうなんです。最近はワンオペの番組も増えていて、ディレクターがいなくて喋り手だけというケースもあります。そうなると周りが無関心になりがちなんですよ。でも、「この番組面白かったよね」とか「この回のあの話よかったよね」とか、口に出して共有することがすごく大事だと思います。
島田
渋谷のラジオでは現在、100以上の番組をすべて自主制作で放送しています。。聴いてみると本当に面白い番組ばかりなんですが、どうやったらみんなに出会ってもらえるんだろう、聴いてもらえるんだろうって、いつも考えるんですよ。
やきそば
まずはXでの告知ですね。文章だけでなく、30秒くらいの動画でスタジオの様子を見せながら告知すると効果的です。それから番組が終わったあとにパーソナリティがnoteを書いたり、YouTubeやTikTokで短い動画を出したり。良い番組を作るだけではなく、それをどう届けるかを考えることってすごく大切ですよね。どうしても自分の番組を宣伝するのは遠慮しがちですが、むしろしつこいくらいでいい。貪欲に発信していくことで、初めて届くんだと僕は思いますね。
島田
番組を作ることと同じくらい、届けることも大事なんですね。渋谷のラジオには魅力的な番組が本当にたくさんあるので、どうすればもっと多くの人に知ってもらえるのか、これからも工夫していきたいと思います。
渋谷のラジオはこの4月で開局10周年を迎えます。大都市である渋谷では、暮らしている人よりも働いている人や学校に通っている人の方が多い。何かが起きたときに、みんなが助け合える未来を目指して放送を続けているわけですが、渋谷のラジオがこれからできることはどんなことだと思いますか。
やきそば
まず、今日こうして島田さんと話していることがすごく嬉しいんです。渋谷のラジオには本当にいろいろな人がいますよね。ミュージシャンもいれば商店街の店主もいて、大学の教授もいるし、ボランティアディレクターの方のバックグラウンドも多種多様で。でも意外と横のつながりが少ない気がするんです。だから、例えば「この人とこの人が対談したら面白いんじゃないか」というような、パーソナリティ同士のシャッフル企画をやってみたらいいと思います。そういう出会いから思いがけない化学反応が生まれるはずです。
島田
まさに渋谷らしい発想ですね。街には本当に多様な人が集まっていて、その人たちが声でつながる場所がラジオだと思っています。思いがけない組み合わせの対話から、新しい番組や新しいコミュニティが生まれていくかもしれません。10周年を迎える渋谷のラジオが、これからも人と人をつなぐ場所であり続けたいと思います。
